飲食店の AI 活用ガイド:業務別に任せられること・人がやること
目次
「AI を使えば人手不足が楽になる」と聞いても、どの業務から手を付け、何を任せてよいのかは見えにくいものです。この記事では、飲食店の主な業務を 8 つに分けて、AI や IT のツールに任せやすいことと、人がやるべきことを整理します。
結論から言うと、AI に任せやすいのは「決まった形の情報を読み取る・まとめる・記録する」仕事と「よくある質問への一次対応」です。予約の確定、お金に関わる約束、アレルギーなど安全に関わる判断、お詫びといった「決めること」「約束すること」は人が担います。始めるときは、いちばん時間を取られている業務を 1 つ選び、AI の結果を誰が確認するかを決めてから試すのが近道です。
業務別:AI・IT に任せやすいこと、人がやること
「AI 活用」と呼ばれるものには、AI が文章や音声を理解して答えたり要約したりするものと、決めたルールどおりに自動で処理するもの(テンプレートからのシフト作成、売上の集計など)が混ざっています。この記事では両方をまとめて「AI・IT に任せる」と書きます。どちらも間違えることはあるため、「間違えたときに誰が気づき、どう直すか」までをセットで考えます。
| 業務 | AI・IT に任せやすいこと | 人がやること |
|---|---|---|
| 予約受付・電話 | 時間外・ピーク時の一次対応、用件の記録 | 予約の確定、宴会・貸切の条件 |
| グルメサイトの予約 | 予約メールの読み取りと台帳への転記 | 読み取れなかった予約の確認 |
| 問い合わせ対応 | よくある質問への回答、時間外の自動返信 | FAQ にない質問、アレルギー・返金の判断 |
| シフト | 型からのたたき台作成、労働時間の集計 | 希望の調整、休憩・労働時間の確認 |
| 仕入れ・在庫と原価 | 原価率の計算、在庫と棚卸差異の記録 | 発注量の判断、値付け |
| 衛生管理の記録 | 点検のチェックリスト化、記録漏れの見える化 | 計画づくり、異常時の対応 |
| 売上の振り返り | 日報の集計、前年比、日報の要約 | 原因の解釈、打ち手の決定 |
| スタッフ教育 | マニュアルの下書き、進み具合の記録 | 実演、声かけ、評価 |
予約受付・電話
AI が電話に出るサービスを使うと、営業時間外やピーク時の電話に一次対応できます。営業時間や駐車場などの決まった質問に答え、予約の希望(名前・日時・人数・電話番号)を聞き取って記録するところまでは任せやすい仕事です。
一方、予約を確定するかどうかは人が決めます。席の組み合わせ、コースの仕込み量、アレルギーへの対応可否は、その日の店の状況を知る人でなければ判断できないからです。AI が聞き取った予約はスタッフが確認し、確定の連絡を返す流れにして、誰がいつ折り返すかも決めておきます。AI が応対していることは、冒頭でお客様に伝えましょう。
例文:AI が電話に出るときの冒頭の案内
お電話ありがとうございます。【店名】です。 ただいまの時間は、AI が自動でご用件をおうかがいしています。 ご予約をご希望の方は、お名前、ご希望の日にちとお時間、人数、ご連絡先のお電話番号をお話しください。 内容を確認したうえで、スタッフから改めてご連絡いたします。
電話の受け方そのものは 飲食店の電話対応マニュアル で説明しています。
グルメサイトの予約の取りまとめ
複数のグルメサイトに掲載していると、予約の通知メールをサイトごとに台帳へ書き写す作業が毎日発生します。メールを読み取って台帳に登録する仕組みは、AI・IT が力を発揮しやすい業務です。変更やキャンセルのメールも反映できれば、書き写しの漏れや間違いを減らせます。
ただし、メールの形式が変わるなどして読み取れないメールはゼロになりません。読み取れなかったメールを誰がいつ確認するかを決めておきます。また、ある経路で埋まった席を他のサイトで締める作業は、メールの取り込みとは別に必要です。サイトの選び方は ホットペッパーの掲載料と本当の獲得コスト で整理しています。

問い合わせ対応(LINE・メール・Web)
営業時間・アクセス・個室の有無などの問い合わせは、毎回ほぼ同じ答えになります。店が用意した FAQ(よくある質問と答え)をもとに AI が先に答える仕組みや、営業時間外の自動返信に任せられます。FAQ に答えがない質問では、AI が無理に答えず「担当者に確認します」と人に引き継ぐ作りになっているかを確かめましょう。
アレルギーの質問は必ず人が答える
「この料理はアレルギーがあっても大丈夫ですか」という質問は、仕入れや調理工程で答えが変わります。AI に「大丈夫です」と答えさせず、スタッフが確認してから返してください。値引き・返金も同じです。
例文:営業時間外の自動返信(LINE・メール)
メッセージをお送りいただき、ありがとうございます。【店名】です。 ただいま営業時間外のため、すぐにお返事ができません。 営業時間内に、届いた順にご返信いたします。 本日・明日のご予約など、お急ぎのご用件は営業時間内にお電話ください。
シフト
曜日ごとの必要人数や時間帯の「型」を作っておけば、シフトのたたき台は自動で作れます。休暇の承認に合わせたシフトの調整、労働時間の集計、有給休暇の残日数の管理も任せやすい部分です。
スタッフの希望や事情をくみ取って最終的に決めるのは人です。労働基準法 34 条は、労働時間が 6 時間を超える場合は少なくとも 45 分、8 時間を超える場合は少なくとも 1 時間の休憩を与えるよう定めています。自動で作ったシフトでも、休憩と労働時間が法令と就業規則に合っているかは人が確認し、迷う点は社会保険労務士や所轄の労働基準監督署に相談してください。作り方は 飲食店のシフトの組み方 にまとめています。
仕入れ・在庫と原価
レシピに食材の使用量を登録しておけば、1 品ごとの原価と原価率が自動で出ます。たとえば売価 980 円で食材原価が 320 円なら原価率は約 32.7%、仕入値が上がって原価が 360 円になれば約 36.7% です(数字は仮定値)。値上げや盛り付けを見直す材料になります。
在庫の記録や棚卸しでの差異の計算も任せられますが、実際に数える作業と、天候や予約を見て発注量を決める判断は人が担います。自動の在庫引き落としや発注は、レシピや在庫のデータが正しくなければ役に立ちません。まずは原価の計算と月末の棚卸しを回すことから始めます。
衛生管理の記録
2021 年 6 月から、原則としてすべての食品等事業者に「HACCP に沿った衛生管理」が求められています(厚生労働省)。小規模な飲食店は、業界団体の手引書を参考にした「HACCP の考え方を取り入れた衛生管理」が対象で、計画・実施・記録が基本です。
このうち記録は、紙からアプリに移しやすい業務です。点検項目をチェックリストにすればスマートフォンで記録でき、記録の抜けた日もすぐ分かります。ただし、何をどう確認するかの計画と、異常時の対応は人が決め、衛生管理の方法は管轄の保健所の指導に従います。立入検査の備えは 保健所の立入検査で指摘されやすい 7 項目 をご覧ください。

売上の振り返り
売上・客数・客単価の集計や前年比は、日々の数字が入っていれば自動で出せます。日報を AI が要約し、良かったこと・課題・対応が必要なことに分けて翌朝に届ける使い方もできるようになりました。ただ、AI が要約できるのは日報に書かれたことだけで、原因を考えて次の手を決めるのは人です。日報に「良かったこと」「課題」「お客様の声」「申し送り」の欄を設け、事実と気づきを書く習慣をつけましょう。
スタッフ教育・マニュアル
マニュアルづくりには、文章を作る AI(生成 AI)が役に立ちます。手順のメモから番号付きの手順書の下書きを作ってもらえば、ゼロから書くより早く仕上がります。一方、やって見せる、褒める、直すところを伝える、といった教育の中心は人の仕事です。
例文:生成 AI にマニュアルの下書きを頼む指示文
あなたは飲食店の店長です。下のメモをもとに、アルバイトの新人向けの開店作業マニュアルを作ってください。 ・手順は番号付きにして、1 行に 1 つの動作だけを書く ・各手順に「なぜやるのか」を一言添える ・最後に、確認用のチェックリストを付ける メモ: 【ここに手順のメモを貼る】
下書きは現場で試して直してください。お客様の情報やレシピの配合は、無料の生成 AI サービスに貼らないようにします。
始める順番:1 つの業務から、時間を測って試す
つまずく原因の多くは、いきなり複数の業務を変えようとすることです。次の手順で小さく始めます。
- 1 週間、時間を測る:電話、予約の書き写し、シフト作り、閉店後の事務に何分使っているかを記録します。
- 1 つだけ選ぶ:毎日発生する、手順が決まっている、間違えても取り返せる業務が候補です。
- ルールを決めて 2〜4 週間試す:誰が確認するか、何を人に回すかを決めます。無料トライアルがあれば活用します。
- 測った時間と比べる:作業時間のほか、お客様とスタッフの反応も確かめます。
- 次の業務へ広げる:うまく回り始めてから、2 つめに進みます。
順番の一例は「グルメサイトの予約の取りまとめ → 問い合わせの一次対応 → 衛生管理の記録 → シフト → 在庫・原価・売上の分析」です。前の 3 つは結果を確かめやすく、後ろの 2 つはデータがそろってから効果が出るためです。
費用の考え方:月額料金以外も含めて比べる
月額料金だけでなく、次の費用も比べます。
- 初期費用・設定費:メニューや席の登録を誰がやるのか
- 端末:タブレットやプリンターを新しく買う必要があるか
- 使った分の料金:AI の利用量や通話時間に応じた料金があるか
- オプション:必要な機能が基本料金に含まれるか
- 社内の時間とやめるときの条件:設定・説明の手間、解約金、データを持ち出せるか
効果は、減らせる作業時間を金額に置き換えると比べやすくなります。たとえば予約メールの書き写しに 1 日 40 分かかれば、30 日で 20 時間です。時給 1,200 円なら月 2 万 4,000 円分になります(数字は仮定値です。最低賃金の最新の金額は厚生労働省で確認してください)。
デジタル化・AI 導入補助金(旧・IT 導入補助金)などの対象になる場合もあります。補助の対象は事務局に登録されたツールに限られ、対象の経費や補助率は公募回ごとに決まるため、最新の公募要領で確認してください。使える補助金は 補助金・助成金を探す ページで探せます。
失敗しやすい点と対策

| よくある失敗 | 起きること | 対策 |
|---|---|---|
| 業務ごとに別のツールを入れる | 確認する画面が増え、転記が残る | データがどこにまとまるかを先に決める |
| AI に「決めること」まで任せる | 確定していない予約や、できない約束が伝わる | 確定・お金・安全に関わることは人に回す |
| 確認する人を決めていない | 通知や「要確認」がたまる | 担当者と確認のタイミングを決める |
| 元の情報が古い | 営業時間やメニューを古いまま答える | 変更したら FAQ も同じ日に直す |
| 現場に説明せずに入れる | 使われず、紙との二重管理になる | 目的を伝え、最初の 2 週間は店長が付き添う |
予約データと個人情報の扱い
予約で預かる名前や電話番号は個人情報です。個人情報保護法は、2017 年 5 月に全面施行された改正で取り扱う人数の要件がなくなり、個人情報を事業に使う事業者は規模にかかわらず対象になっています(個人情報保護委員会)。利用目的を特定して通知または公表する、安全に管理する、従業員や委託先を監督する、法令で認められた場合を除き本人の同意なく第三者に提供しない、といった対応が求められます。
ツールを選ぶときは、データの保管場所、AI の学習に使われるか、スタッフごとに見られる範囲を分けられるか、操作の記録が残るか、解約時にデータを持ち出せるかを確認します。アレルギーなど体質に関わる情報は、特に慎重に扱ってください。予約ページや店内には、利用目的を示しておくと親切です。
例文:予約時にお預かりする情報の利用目的
ご予約の際にお預かりしたお名前・お電話番号などの情報は、ご予約の確認とご連絡、ご来店時のご案内のために利用いたします。法令に基づく場合を除き、ご本人の同意なく第三者に提供することはありません。
プライバシーポリシーの内容など判断に迷う点は、弁護士などの専門家に確認してください。
Bookmi でできること
Bookmi(ブクミ)は、飲食店の予約・注文・シフト・衛生管理・数字をひとつの管理画面にまとめるサービスです。ご利用いただける機能はプランにより異なります。
- 予約メールの取り込み:グルメサイトの予約通知メールを読み取って予約一覧に登録し、変更・キャンセルも反映します(予約メールを取り込む)
- AI 電話(オプション):お店の資料をもとに AI が一次対応し、会話は通話履歴で読めます。予約はスタッフが内容を確かめて登録します(AI 電話)
- LINE の問い合わせ:最初の質問に登録した FAQ や資料から AI が答え、答えられないときは担当者に知らせます
- シフト・衛生管理・原価:テンプレートからのシフト作成(シフト表を作る)、HACCP の記録と月次の記録表、レシピ原価と棚卸し
- 経営日報:毎朝 8 時ごろ、前日の売上や、AI が日報を要約した内容が管理者に届きます
詳しくは 飲食店向けの Bookmi と 料金 をご覧ください。30 日間の 無料トライアル もあります。
よくある質問
小さな個人店でも AI を使う意味はありますか?
あります。人数が少ない店ほど、電話や事務が一人に集中しやすいからです。いちばん時間を取られている業務を 1 つ選び、無料で試せる期間に効果を確かめてから続けるかを決めましょう。
AI 電話に予約を確定させても大丈夫ですか?
おすすめしません。席の組み合わせやアレルギーへの対応など、その日の状況で判断することが多いからです。AI には聞き取りと記録を任せ、確定の連絡はスタッフが返すと行き違いを防げます。
無料の生成 AI サービスを仕事に使ってもいいですか?
マニュアルの下書きなど、個人情報や社外秘を含まない作業なら役に立ちます。予約台帳やレシピの配合は入力せず、利用規約やデータの扱いを確認してから使ってください。
AI を入れればスタッフを減らせますか?
まずは「浮いた時間を接客や仕込み、教育に回す」と考えるのが現実的です。AI の結果を確認する人や、例外に対応する人は欠かせません。
まとめ
飲食店の AI 活用は、「読み取る・まとめる・記録する・よくある質問に答える」仕事を任せ、「決める・約束する・安全を守る」仕事を人が担う、という線引きから始まります。最初は結果を確かめやすい業務を 1 つ選び、確認する人を決めてから試しましょう。費用は月額料金以外も含めて比べ、個人情報の扱いも導入前に確認しておくと安心です。